青年モラトリアムの読書譚

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読書感想|中村靖彦『ウォーター・ビジネス』岩波新書

 

ウォーター・ビジネス (岩波新書)

ウォーター・ビジネス (岩波新書)

 

 

内容(「BOOK」データベースより)

今世紀最大の問題の一つといわれる水問題をめぐって、ウォーター・ビジネスの世界が過熱している。特に多国籍企業がビジネスチャンスを求めて水資源の獲得や利用の権利を確保するために、世界各地に進出している。日本国内をはじめ、アメリカ・中国などの現場取材を通して、その実態を明らかにし、水はいったい誰のものかを考える。

 

 また水ビジネス、もとい今回はウォーター・ビジネスの話。僕の最近の関心事の一つなので、いろいろ読んでいる。本書は特にコンビニや自動販売機でも手に入るボトル・ウォーターの話が中心となっている。

 さて、一口にウォーター・ビジネスとはいえ、その幅はかなり広い。ウォーターバロンを中心とするコングリマットが世界の市場を寡占する上・下水道事業の他にも、逆浸透膜などの先端技術で日本が業界を牽引する見込みの大きい海水淡水化事業、工場排水浄化事業など多岐に亘る。これら水をとりまく諸問題はすべて同根の事態 ―即ち、地球上にある水の分布の不均衡に端を発する。水危機への対応に関して、公共財としての水の再配分という側面から議論をはじめざるをえない理由はここにある。それは本書の中心的な関心が「水は誰のものか」ということに注がれている点からも明らかであろう。

 

 とはいっても、やはり水資源の豊饒さに慣らされている日本人の御多分に洩れず、水は蛇口をひねれば出てくるものとの刷り込みがあるので、いくら近い将来、水危機がやってくると言われても、なかなか現実感は伴わない。

 しかし、ボトル・ウォーターの話となれば別である。僕なんかは、むしろこのボトル・ウォーターの方が生活に直結しているので関心を持ちやすいと思っている。抽象的で高尚な議論に入るには、まずは具体的な日常の問題を出発点にすべきとは、僕の二十四年来の経験則である。僕自身、ほぼ毎日水を買って飲んでいる以上は、いったいぜんたいボトル・ウォーターの何が問題になっているのか、一消費者として知っておきたいと思うのは自然の情ではあるまいか。

 ―え?なんでわざわざ水を自動販売機とかコンビニで買って飲んでいるかって?

 ふふふ。君!よくぞ聞いてくれました。

 実は僕も以前は蛇口の水道水を飲んでいたんですよ。いろいろ理由はあるけれど、本書の中で僕の気持ちを代弁してくれているのが、日本ミネラル・ウォーター協会専務理事の、この言葉である。以下、引用する。

 

「第一に、消費者の自然志向、そして健康志向でしょうね。そしてファッショナブルなイメージが好まれています。また海外に行く人が増えて、飲み水にお金を払うのは向こうでは当たり前という感覚が身についてきたと思います。それから、やはり用途が広がってきましたね。ただボトルから飲むのではなく無洗米をこの水で炊くとか、料理にも使う人が増えてきました」(p.45)*太字はブログ管理人。

 

 と、いうわけです。健康志向の人と、海外経験者が水を買って飲むというのは理解できるけれど、ファッショナブルなイメージが好まれているというのはどういうことなのだろうか。Macを片手にスタバのコーヒーはファッショナブルではなく、ボトル・ウォーターが今どきのファッションということなのだろうか。さもありなん。

 

 そんなボトル・ウォーターがマイブームの僕が本書で最も興味を引かれたのは、冒頭で紹介されている東京・渋谷区恵比寿ガーデンプレイスの中にあるというウォーター・バー。

 

「店の名前は、『R gath』。

 椅子に座ると、ボトル・ウォーターの名前が並んだメニューが現れる。全部で三二種類ある水の名前は、普段馴染みのないものが多い。

 客の人気商品を飲んでみる。

 一番人気は『マサフィ』、アラブ首長国連邦ナチュラルミネラルウォーターである。柔らかな舌ざわり、硬度は八五、軟水になる。素直に美味しい、と思う味である。日本で製造されているミネラル・ウォーターはほとんど軟水だから、同じ部類に入る水はやはり馴れていて飲みやすいのだろう。(中略)値段は五〇〇ミリリットル・ボトルで二〇〇円。決して安くはない。

 二番目の人気は、『スイス・ウォーター』。硬度千〇六三、硬水である。やや重たい感じの味がする。もちろんスイス産。こちらはもう少し高くて、五〇〇ミリリットル・ボトルで二七〇円。

 三番人気は『ルソ』。硬度八、ポルトガル産の軟水である。ごく普通の、ちょうど水道の水のような味がする。〝化粧水にも使えます、乾燥気味の肌の方にどうぞ〟という説明がボトルに貼ってある。

 国も名前も多彩である。『ハイランド・スプリング』スコットランド産、『サン・ベネディット』イタリア産、『スルギヴァ』イタリア産、といったように数々のボトル・ウォーターが並ぶ」(p.ⅰ-ⅲ)*中略はブログ管理人。

 

 へぇ。世界にはいろんな水のブランドがあるのだな、とついつい感心してしまう。東京にゆく度に退屈さを感じていた僕は、これは良い情報を得た、これで次からの東京訪問が少しは楽しくなるな、と思ってネットでお店の所在地を調べてみた。この店名は「アール・ギャズ」と読ませるようだ、ふむふむ。すると、

 ―このお店、現在は閉店しました。

 な、なんだってー。・・・・・・残念だ。すごく残念だ。やはり水しか商品のないお店は、お客さんがあんまり来なかったのだろうか。水とビジネスはどうも相性が悪いようだ。水とビジネスはまさに水と油というわけか。水と油の枯渇に配慮しないビジネスのチャンスはいずれ枯渇するぞ、と僕は声を大にして叫びたい。

 と、上手くもない冗談で今日の話を締めくくります。